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2020/09/05 sat

豊かな生活を”デザイナー”として大磯から発信、AUI-AŌ Design。

コーヒーフィルターのようなメッセージカードや、昔懐かしい牛乳瓶の「紙ふた」のシール。
独自のフィルターを通して“ひとひねり”加えたユニークなデザインを大磯から発信している、AUI-AŌ Design佐藤 一樹さん·佐藤 桃子さんご夫妻。
インタビュアーはプロサーファーでありトラベラー、さらには映像制作も行い活動のフィールドを広げている和光 大さん。
グラフィックデザイナー、プロサーファーと一見相容れない世界にも、シンパシーを感じる対談となった。

古くて、新しい「活版印刷」の魅力が再燃している。

佐藤 一樹さん:幼い頃から絵画教室に通っていて、中学に上がった時にはデザインやイラストにとても興味を持っていました。
将来は漠然とデザイン関係に進みたいと思っていたので、進路は早い段階から明確でしたね。
父が不動産業を経営していたこともあって美術大学の建築科に進んだんですけど、あんまりしっくりこなくて。
在学中にイラストの個展を開いたり、チームでフリーペーパーを作ったりしていました。

和光 大さん:僕もサーフィンをはじめたのは小学4年生のころ父の影響で。
試合に出るようになって同世代の子たちにボロボロに負けてそれがすごく悔しくてプロを目指すようになりました。
当時、学校で10年後の自分に手紙を書いたんですけど、そこに10年後はプロサーファーになってますか?
って書いてあったのでその頃にはもうサーファーになる夢がありました。

佐藤 一樹さん:紆余曲折ありながら2010年くらいまで企業のインハウスでデザインの仕事をして2011年3月に友人と会社を立ち上げて、スタッフに技術を教えたり諸々準備を進めている段階で東日本大震災がありました。
状況的に前に進むこともできず、全てが白紙に戻ってしまって。
精神状態が大きく仕事に影響する商売なので、無気力になってしまいましたね。

そんな中、大磯港で毎月開催されている「大磯市」にせっかくだから出店してみないかって奥さんに言われて。
ただ単に出店しても面白くないから、紙からこだわったレターセットを自分たちの手でお客さんに販売したいと思いました。
それこそが市場の最大の魅力ですよね。
大磯市に出店する際に屋号を考えて、翌6月に参加したのがAUI-AŌ Design立ち上げのきっかけです。

デザイナーとして文字のあり方を深く追求していくうちに、「活版印刷」という表現方法に出会う。

佐藤 一樹さん:活版印刷はすべての印刷技術のルーツ。
ルネサンス三大発明のひとつで、西欧諸国が世界に躍進するきっかけになる程の技術です。
それまで手書きだった聖書を効率よく大量発行するために、最初はワイン用の葡萄をプレスする機械を改良して木版で作られました。
単純だからこそ長く残っている技術ですよね。

佐藤 一樹さん:活版印刷はひとつひとつ金属の文字を並べて印刷するのですが、印刷機で使用する文字の種は、鋳込みで職人さんが手で掘ってくれています。
主成分は鉛で柔らかい素材なので、何回か刷っていくうちにだんだん形が変わっていったりとか。
やっぱりアナログなのでちょっとずれていたり歪んだりするので、”全く同じ文字”というものがありません。
それは目に優しかったり読み易さに繋がっていて、活版印刷最大の魅力です。
昔の小説は読みやすいってよく言われますけど、文字を追っていて飽きないんですね。
実際に素人さんが見るとデジタルで打ち込まれた文字も活版印刷も違いが分からないと思うんですけど、圧をかけて少し凸凹にへこませることが活版印刷の個性であり、ひとつの良さに繋がっています。

和光 大さん:デジタルが進化していったからこそクラシックなものが映えてくるんですね。
僕は写真を撮る時に、デジタルのカメラにフィルムカメラのレンズを付けて撮影しています。
自分でフォーカス調整をしなくてはいけないので、ズレている時もある。
でも、その不便さよりもフィルムの生々しく撮れるところに魅力を感じていて。
言葉では言い表せない心地よさがあると思っています。

和光 大さん:今でこそいろんなことを多岐にわたって活動の場としていますけど、もともとは全く正反対でした。
父の影響もあって、プロサーファーに絞って極める事に集中していましたね。
でも父には、逆にもっといろんなことをやれとも言われていて。
「いろんなことをやれ。でもベースを忘れるな」っていうことが言いたかったんだと、今となっては思います。
世界で活躍するサーファーになるために15歳から20歳までオーストラリアに留学して、帰国してからプロになって一年目はすごく成績が良かったんです。
その後2~3年成績がガタ落ちで本当に行き詰まってしまって、やめてしまおうと思ったことがありました。
なんの為にサーフィンをしているのか分からなくなってしまって。
自分は何をしたいのか自問自答が続いて、全部吹っ切れた時に気づいたんです。
せっかく世界中様々なところに行っているのに、同じ景色しか見てないなと思って。
自分がしたいことをどんどん追求して、世界一周の旅に出ることにしました。
やりたいことに素直に突き進んでいくことで、見えてくる景色と向き合いたいですね。

佐藤 一樹さん:僕たちふたりはお互い得意分野があって。
彼女は細かい作業が丁寧だし、どちらかというとひとつのことをずっとできるタイプ。
僕は飽き性なので、常にデザインに向き合いながらお互いに意見を交換し合って具現化していくっていうバランス感です。
デザイン会社って、デザイナーの名前をとって「佐藤一樹デザイン事務所」とかってよく耳にしますよね。
僕ら自社ブランドの作品は全部”ひとひねり入れる”ことをコンセプトにしているので、
まさに名前を前面にだすデザインってどうなのかなっていう思いがすごく強くて。
でも文字には拘りたい思いもあるので、KAZUKI SATOの母音を取って「AUI AO」と名付けました。

「グラフィックデザイナーとしても”ひとひねり”」

佐藤 一樹さん:デザイナーって大きく2つに分かれていると思います。
ひとつは作家性を持ったデザイナー、もうひとつは作家性を消しているデザイナー。
僕はどちらかというと作家性を消す方が性に合っていて、まさに事務所名と同じです。
その人のベストなものを僕が肩代わりして具現化していく。
クライアントさんが何を求めていて、それを僕がどう表現してあげると最大限のコラボになるかという感覚が一番大切だと思っています。
そのはざまでフラストレーションになる部分を消化するために、自分たちの自社ブランド立ち上げているっていうのはありますね。

佐藤 桃子さん:私は元々ものづくりがとても好きで服飾の専門学校を卒業後、ユニホームのメーカーに勤めていたんです。
そこでサラリーマンをしながら同時進行でデザイン事務所を立ち上げました。
ステーショナリー系の雑貨の製作を主にしています。
デザインには自分の趣味とか、その時好きなものを思う存分詰め込むタイプで身の回り生活の中とか、みて感じたものを掛け合わせてみたり。
トレインコースターという作品は、当時スタンプ帳を持ち歩くくらい電車が好きだったのでどうしても作りたくて。
自分たちで作っている良さって、小回りが効くので作りたいと思ったらすぐ行動して自分の手で売ってお客さんの反応が見られるところにありますよね。
そういう自分たちの想いを込めて自己完結できるところが、二人で作っている良さと思います。

佐藤 一樹さん:僕たちは東日本大震災をきっかけに地元大磯に戻ってきました。
東京で働いて、ある程度知識をつけた当時30代前半の人たちがちょうどダウンシフトしてくるタイミングで。
震災のとき「大磯市」には精神的にとても助けられていたので、せっかくそういう機会を貰ったんだから地元に恩返しをしたいと思っています。
これからもベースは大磯でやっていこうかなっていう意識を持つようになりましたね。

和光 大さん:僕はベースがない状態でいいのかな、って思っていて。
いろんなものを吸収したい時期だと思っているので、今はベースを作らずに動き回れるままでいようと。
人と人との距離ではなくて、街や都市との距離をきちんと保って動けていけたら。
そういう意味でのソーシャルディスタンスをこれから掲げてやっていきたいと思っています。
いまは援農という、農家さんを助けることで畑の区画をお借りするプロジェクトに参加してもっとコミュニティを広げたいと思っています。
西日本をキャンピングカーで一周した時に出会った藍染職人さんとの繋がりで、日本の伝統文化を広めることが環境を保護する活動に繋がるのかもしれないということに気づきました。
日本の文化って一番サスティナブルで、エコなんじゃないかな。
いまは日本の伝統文化をもっと学びたいと思っていますね。

「何をデザインし、何をデザインしないか」

佐藤 一樹さん:デザインって歴史あるものをうまく利用したり、心理学を応用したりいままで蓄積されてきたものをうまく使って新しいものを生み出すものだと思っていて。
新しくするためだとしても、全て壊してしまうと良くないんですよ。
残さなきゃいけない部分もあって、勇気を持ってそこは変えないっていうのは、相手へのリスペクトとして大切だと思います。
「何をデザインして何をデザインしないか」を見極めることが重要ですね。

佐藤 一樹さん:僕ら個人がやっていることって、社会の一部でしか無いじゃないですか。
そういうものをまとめて発信できるのが2416Marketの力強さだと思うんですよ。
大磯に住んでいる目的の一つとしては、豊かな暮らしをしたいということです。
「なんでもいいや」じゃなくて器ひとつとってもこの器でご飯食べたらおいしいよね、だったり。
水のかさが増すように、みんなで生活基準を上げていけたらいいですよね。
2416Marketがそういう発信をしてくれると僕たちももっと住みやすくなるし、多分みんなが幸せって思えるんじゃないかな。

和光 大さん:僕も「豊かな生活」を掲げて活動していることが多くて、映画に関してもゴミ問題や環境問題をテーマにするよりも「いまを生きる大切さ」を伝えたい。
「いまを生きる」ことでその瞬間に感謝が生まれたり、リスペクトが生まれると思います。
結局のところそれが環境活動にも繋がるんです。
いまこの瞬間に生きることで得た気づきをテーマに、みんなが行動すると世界は変わるんじゃないかなと思っています。

つきやま Arts & Crafts

「大磯市」に参加する若手クリエイター約30組の作品が並ぶ、「つきやま Arts & Crafts」。
まさに「大磯市」がきっかけで地元の人やクリエイターたちの出会いの場、コミュニティの役割を果たしている。

H.P:https://oiso-tsukiyama.jimdofree.com
Access:〒255-0003 神奈川県中郡大磯町大磯1156 つきやま